理事長コラム 第4回

学校法人 せいわのわ 名誉理事長 山中 倫雄 連載インタビュー

第4回【読む力・書く力・話す力・聞く力 〜再び児童相談所へ。非行問題と向き合う〜】

「高知中央児童相談所の職員に空きが出たので、試験を受けてみませんか?」という話がありまして、私は試験を受けることにしました。
他に30人ほど受験者がおり、自宅面接や地域での調査もあってなかなか厳しい試験でしたので、私は通らないと思っていましたが、なんと合格しました。

届いた通知を開封する時、たまたま父が私の自宅に来ておりました。最初の大学受験の時に不合格通知を見せてがっかりさせてしまいましたが、今度は採用通知を見せることができました。あの時の不面目さを、県職員採用試験で父に果たすことができたと思っています。

私は、再び児童相談所へ通うこととなりましたが、今度は課長、そして後に次長の立場で職務に当たることになりました。どういう仕事かというと、全ケースに目を通さなければいけません。
担当者は目の前にある事例に全力を傾けますが、課長や次長は俯瞰して各担当の状況を把握。施設に期待されていること、国から降りてくる問題、地域の環境、制度……全体を見ないといけません。つまりマネージメントです。

小学校についていけない要因

その立場になって気がついたことがありました。
学校不適合や虐待などさまざまな事例がありましたが、どの事例も幼児期の親子関係で、すでに“つまずき”が始まっていたんです。
幼児期はアバウトに見てもらえますが、小学校へ上がると見方がシビアになり、そこで問題が生じて児童相談所を訪れるんです。

典型的なのは非行少年。だいたい小学校2、3年生の基礎学力がほとんど身についていません。人の話を聞くことができず、書いてある文章が読めないのです。
勉強とは、自分に対して期待されている意図を、自分でセルフコントロールして相手に返さなくてはいけませんが、その力は幼児期に育てておかないと後からではなかなか育ちません。

子どもは2歳になるとお手伝いをしたがります。この時期にしっかりお手伝いをさせていると、3歳の時に自分の主張だけではなく相手の気持ちを考えられるようになり、4歳の時には友達関係のトラブルをコントロールできるようになります。5歳までにそうしたいくつもの“節”があるんですが、非行少年はこの節を越えていないんです。

相手が言っていることを聞いて、自分の中で考え、自分はこうだと伝えることが「話」ですが、彼らは共通して「話」が自己主張だけです。彼らは、えんぴつやお箸の持ち方もめちゃくちゃです。
無関係なように思えますが、こうしたことが小学校の学力についていけない要因につながっていきます。

これは幼児指導者の責任でもあると、私は考えています。
幼児指導者は「それは親の責任だ」と無責任に言ってはいけません。園で8時間も預かるんだから、そこでしっかりやってあげれば、家庭の中でいざこざが合っても、その子は学校で、社会で、やっていけるんです。

小学校へ行った時に先生の話が聞ける。質問の内容が読める。自分で答えられる。これが出来ていれば、ねじれた時でもセルフコントロールが出来て、頑張っていけるのに…。
そうしたことが元々ない子どもが、児童相談所の非行少年のケースとして上がってきていました。

非行少年に家庭をしみこませる

非行少年と呼ばれる子どもは、小学校の6年間がダメでも中学校で頑張ろうとするんですね。
でも続かず、体が大きくなって力が付くから、非行に走るんです。相手をどうやって脅すか、どうやってお金を巻き上げるか、いわば専門技術のようなものがあり、それを先輩から学ぶんです。

そういう技術を使うとラクにお金を得ることができるので、さらに非行へ走ります。
しかし、その先には暴力団がいて、中学生で覚醒剤に手を出したケースも実際にありました。

子どもが非行に走り、いよいよこのまま家庭に置いていてはダメだとなると、児童養護施設へ入ります。
高知県内にある施設のうち非行に強い施設がありまして、そこで一度過ごしてもらい、ダメであれば「希望が丘学園」へ入ります。私はそこの学園長も務めました。

希望が丘学園は、学習を教えることよりも、生活を立て直すことが最大の目的となっています。「家族とはどういうものか」ということを身にしみこませることが大事で、寮にはお父さん役・お母さん役の職員がおり、朝起きるところから寝るまで徹底したタイムスケジュールが決まっておりました。これが、子どもにとっては非常に気持ちが良いんです。スケジュールによって、“家庭”をつくるんです。

子どもは、それまで管理してもらった経験がないので「誰も俺のことをかまってくれない。捨てられている」と思っています。親が手を離し、学校も手を離し、好き放題でやっているが、子ども自身「こんな状態ではいけない」と感じているんです。
細かい生活スケジュールをきちんとやっていくと、一ヶ月で肌のつやが良くなります。

これは食べ物も大きく関わっています。朝食、昼食、夕食、おやつの“食育”がものすごく効果があるんです。食育をきちんとすると、それまでは人と目を合わせて話をすることができなかった子どもが、一ヶ月後には目が合うようになります。
本来は幼児期にやっておかなくてはいけないことですが、希望が丘学園で初めて規則正しい生活をして、彼らを幼児期に戻り、やり直しをしているんです。

学習では『何年生のいつの、どの教科でつまずいているか』ということを見つけるため教科書を辿っていって、つまずきを見つけたらそこからやり直していきます。
半年もすると子どもは「高校へ行きたい」という気持ちが芽生えてきます。当然高校へ行かせてあげますが、通い始めるとまたグレます。それほどに幼児期につまずいた問題は一生続くんです。

聞く力をつけていく

だからこそ、保育園や幼稚園の時に、我々指導者が子どもに何をさせるのかが重要となります。
私は『読む力・書く力・話す力・聞く力』を重視しており、特に『聞く力』はとても大事だと考えています。

聞く力を育てるには『絵本の読み聞かせ』、そして『先生がきちんとしたお話をすること』が大切です。「ももたろう」など昔話で良いので、ストーリーとして聞くことで聞く力が育ちます。
私は幼い頃、いろり端で昔話を聞いていました。たき火の灯りだけでまさに聞くだけでしたが、聞く力というのは空気の振動を感じ取ることですので、目には見えません。今はテレビなど視覚優先で聞く力が育ちにくい環境だと思います。

ですから、清和幼稚園をはじめとする各事業の職員方には、お話上手な先生・昔話ができる先生になってほしいと思っています。ストーリーテラーの専門家の元で研修する機会なども設けていきたいと考えています。

中央児童相談所時代の理事長

次回「制度の谷間にいる人 〜南海学園で発達障害児とその親を取り巻く問題に向き合う〜」に続く

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